アジアの百花狂瀾

 日本では国家財政難を背景に大増税が計画されている。

相続税も上がる(正確には税率引き上げと控除限度引き下げ)。

そもそも相続税は、本人の能力努力とは関係なく生まれた時から資産に格差があることが社会的に不平等だという考え方に基づいている。一理ある。

では社会的な「地位・名誉の相続」は不平等と言えるのか言えないのか。


 アジアの政界を見渡してみると「地位名誉の相続」が乱れ咲いている。

親の七光りで地位を得ている政治家ばかりが各国のリーダーだというのが昨今の状況である。

昨年末に3年ぶりの与党を奪還した自民党政権。

首相の安倍晋三氏は外相を務めた安倍晋太郎を父に持ち、元首相岸信介はおじいちゃん。

まちがってノーベル平和賞が授与されたといわれる佐藤栄作元首相はおじさんにあたる。

戦前「国際連盟脱退!」を叫び議場を悠然と去った松岡洋右元外相、戦後日本を築いた吉田茂元首相らも姻戚関係というまさに政界のサラブレッド。

韓国では年明けの選挙で朴槿恵(パククネ)氏が初の女性大統領として選出された。

女史は1970年代の韓国の経済急成長「漢江(はんがん)の奇跡」を起こした朴正熙(パクチョンヒ)大統領の娘であり、父の軍人としての、独裁者としての、親日派としての、そして韓国経済発展の礎を築いた人物としての残像を背負わされている。

中国では昨年11月の全国人民代表者会議で10年ぶりの指導部交代があった。

胡錦濤にかわり国家主席の座に就いた習近平は、国務院元副総理・習仲勲を父に持ついわゆる「太子党」。

文化大革命の荒波にもまれたとはいえ、労働者農民国家ではエリートたる共産党幹部のお家柄。

北朝鮮では、若き金正恩(キムジョンウン)が指導者(第一書記)となってまだ1年。

氏はいわずとしれた金日成(キムイルソン)、金正日(キムジョンイル)を祖父、父に持つ「史上唯一の社会主義王朝体制」3代目の継承者。東南アジアに目を転じてみようか。

フィリピン大統領ノイノイ・アキノ氏のお母さんは「ピープルパワー」で独裁政権を倒したコーリー・アキノ大統領。

タイのインラック首相は、2000年代前半タイ社会の抜本的改革を図ろうとしたタックシン・シンナワトラ元首相の実妹。

マレーシアのナジブ・ラザク首相のお父さんは70年代に首相を務めたアブドウル・ラザク。

ビルマの反体制指導者アウンサン・スーチーのお父上はビルマ建国の父アウンサン将軍・・・。

こうして並べてみると、アジアでは指導者を国民選挙で選ぶのか一部有力者の協議で選ぶのかにかかわらず、血筋がものをいう傾向がいかに強いかがわかる。

一体、世襲政治家は優れているのか。


 そもそも政治家に求められる資質とは何だろう。

決断力、調整力、交渉術、忍耐力、さらには幅広い視野、長期的展望、未来への構想力、そして重要なのが集票力…。他にもあるかもしれない。

多くの人々を束ねてある方向に導くという仕事は並大抵の能力では務まらないのは確かだろう。

世襲議員はこうした資質の涵養されるような家庭環境に生まれた時から放り込まれており、いわば「帝王学」を日常的に受けていると言える。

そうすると論理的には、2世代目よりも3世代目、3世代目よりも4世代目と蓄積すればよりすぐれた政治家が生まれるということになる。

しかし実際を見渡してみると、そうとも言えず、世襲議員がいつもすぐれているとは限らない。野球選手の子どもが皆一流のプロ野球選手親になるわけではないことと同然だ。

逆にいえば政治家系以外から優れた人物が現れる可能性もあり、むしろ数としてはそちらの方が多いと言えるだろう。


 そうすると問題は、世襲議員が優れているか否かではなく、むしろ世襲政治家を選出する有権者国民、またそれを支える制度と社会状況にあると言えまいか。

ひとりの資質ある有能な政治家に政治を任せるいわゆる「哲人政治」が機能すればそれに越したことはない。

しかし、実際には「哲人」は稀有であり、よし現れても一旦権力を握れば腐敗することは歴史が証明している。

となればやはり多少の手間暇をかけて民主主義的にリーダーを選んだほうがリスクは小さいはず。

そこで問われるのが有権者・市民の能力だ。

政治的自由が与えられている民主主義社会ではなおさらそうだといえる。

タイのタックシン政権は貧困層へのばらまき政治で選挙民を買収した、貧困層は容易に利権に惑わされ政治判断能力が低い、と批判するのは簡単だ。

では同じように世襲政治家ばかりを選んでいる日本の政治、日本人有権者の行動はどのように評価したらよいのだろう。

有権者はいつも政治家の資質や、打ち出す政策を見て判断をしていると言えるだろうか。

「民主主義制度」そのものの中身と実態を深く考えてみる必要があるだろうし、またそこには多くのアジア地域に共通する家族や権威に対する政治意識と社会構造的課題があるのかもしれない。

アジアに乱れ咲く世襲政治家現象についてつっこんで考えてみると面白い。


 相続税を厳しくするように、地位と名誉の相続への制限を徹底すれば、日本でもまったく違った社会が生まれてくるかもしれない。

 

2013.1